くだらないもの

1ヶ月ほど前
全く瑣末な事から
実父と会うことになった

互いの連絡先を知っていたので
それで連絡をし合い
会う場所や日時を取り決めた

彼は仕事が忙しい
会うのは真夜中の個人経営の焼肉店
連絡を取り合って2日後だった

会うのは何年ぶりだろう
緊張しながらそう想いを馳せて
私はそこへ向かった

遂に会った
相変わらず話の入り口は
私が母に似ていることだった

髪が伸びてボブくらいの長さがあるから
若い時の母さんそっくりだな
と彼は笑った

造作ない
限りなく平易な話をお互いにした後で
私は少し重い話をし始めた

2、3番目の里親のこと
レイプされたことや援交していたこと
精神が不安定であること

しかし彼は全く動じなかった
或いはそうであるように振る舞った

そうして互いに十分話し合い
互いの現状を折り紙のように
1つ1つ丁寧に飲み込んでいった

そして彼は忽ちこう言った
お前とはもう家族ではない
と何かを含むように

これが意図するところは
紙面上の話であった
矢庭なことで私は驚いた

紙面上では家族ではないが
私達は確かに親子だから
いつでも頼って来なさいということだった

私はこの人を信じ切ってはいないので
当然こんな言葉など
腐る程聞いたわと鵜呑みにしなかった



しかし全くわからないものだ
紙切れで簡単に終わる家族
それは一体なんだ

もう私達は
社会に家族とは認められない
認めてもらう証拠を失っているのだ

そこには
間主観性しかないのだろう
これは世にも悲しいことだ

母と父はもう家族ではなく
互いに違う家庭を持っているらしい
私には現状を知る術も帰る場所もない

否、どこにもいたくないのかも知れない
紙切れで家族が生成したり消滅したり
こんなくだらないところなのだ

誰かが書いた色んな紙切れのせいで
私は何度も家族を変えられた
一切の了承も得ずにそれは行われた

私の意思とは関係なく
凡ゆる私に関することが
他の誰かによって決められる

それは往々にして
社会という強大な存在の元で約束され
権力の前に私は為す術を失くす

社会的に家族とは見なされない
そんな関係であっても
時に連帯責任を負わされる

全て紙のせいだろう
いつからだ
こんな馬鹿げた制度があるのは

しかし面白くもあるものだ
その紙で
幸せになる人も不幸になる人もいるのだ

私は不幸か
今では帰属意識さえ存在しない
家族というものがわからない

地に足ついた関係
これをどれほど望んだだろう
ニセモノは嫌なのだ

しかし身も蓋もないがどうでもいいことだ
私は常にふらふらしている
それで良いではないか

僅少な心情変化に突き動かされて
あっちへ行ってこっちへ行って
今日はこの人明日はあの人

全く愉快である
今が良ければ世は事もなし
天下太平である


この世は紙の話ばかりだが
己の人生を紙で縛られてはならんのだ
そんな気がするのだ、藍緋